献杯と献花の知識
故人への敬意を表する目的で葬儀や通夜後に食事の席を設ける事があります。その際の掛け声は「乾杯」ではなく「献杯」と掛ける事は知っていても献杯の意味やマナーや注意点はご存知でしょうか。また、同じように故人を弔うという目的がありながら献杯と似ている言葉の「献花」という作法があります。それぞれの作法の場面は違いますが併せて覚えておくと良いでしょう。
今回の記事では、献杯と献花の知識について詳しくご紹介致します。
献杯の知識
献杯とは、葬儀や法事などの弔辞の際に「故人に敬う気持ちを表し、故人の死を悼み、杯を差し出す」ことを意味します。葬儀や法事の会食の際に、参列した方が故人に捧げる杯であり代表者の挨拶の後に杯を交わすのが基本です。よく「乾杯」と混同されがちですが、乾杯はおめでたい席やお祝いの会食で杯を高く上げて大きな声を出し杯と杯を合わせて音を立てたり、場合によっては杯を交わした後に拍手をしたりする事です。乾杯は元は西洋から伝わった習わしで慶事に行われる機会が多く献杯とは大きく意味が異なりますので注意が必要です。「献杯」は、元々日本にあった弔辞の儀式であり、故人を偲び弔う気持ちで杯を交わす習わしです。乾杯のように杯を高く上げる事も大きな声を上げる事もなく静かに落ち着いた状態で、杯を合わせ音を立てる事もせずに拍手などをしません。
献杯を行う主なタイミング
献杯は弔辞の儀式とお伝えしましたが、葬儀での献杯の具体的なタイミングは、通夜ぶるまいの開始時と精進落としの後に献杯が行われます。通夜ぶるまいとは通夜の後にふるまわれる食事で、時間を作って通夜に参列してくれた弔問客の人たちをもてなしたり、故人との思い出話をしたりするのが趣旨です。精進落としは火葬場から戻った際に親族や親しい方たちにふるまわれる食事で、以前は四十九日を迎えるまでは普段通りの食事をしない風習があり、肉や魚を使った食事を食べないようにしていました。そして、四十九日の忌明けに普段の食事に戻すというタイミングのことを精進落としと呼んでいたのですが時代の流れや葬儀の形式の変化に伴い、意味合いが変わっていき現在のような火葬後に親族たちと食事を共にするという意味になりました。
献杯のマナーや注意点
献杯のマナーや注意点として、まずは乾杯との違いに注意しなければいけません。乾杯とは違い、献杯では杯同士を打ち合わせる事はせず、唱和も静かに行い、拍手もしないようにします。また、一般的な食事であれば乾杯をする前に料理や飲み物に手をつけてしまってもマナー違反にはならない事が多いですが、葬儀や法要の場合には代表者が献杯の掛け声をかけるまでは料理や飲み物に手をつけてはいけません。このマナーを知らずに葬儀や法事後の食事の席に出てしまい普段通りに食事をとってしまうと、非常識な人という印象を与えかねませんので、ご自身の為だけではなく周りの方に不快な思いをさせない為にも献杯ならではのマナーをしっかりと覚えておきましょう。実際に献杯を行う時の飲み物として、日本酒やビールなどのアルコール飲料を準備している場合が多いようですが飲み物に特に決まりはなく、必ずしもお酒でなければいけないという訳ではありません。車を運転する予定がある方やお酒が飲めないといった方に対してはソフトドリンクを準備するのが基本ですので、献杯の際に無理をしてお酒を飲む必要はありません。
献杯の挨拶は喪主とは限りませんので喪主の方が他の誰に献杯の挨拶を依頼したいと思ったら前もって本人に依頼する場合もあります。とは言え、様々な事情により当日になって急に献杯の挨拶を依頼される場合もあります。献杯をする方として多いのは喪主・遺族・故人と親しい関係であった人の順だと考え、当てはまる場合には依頼された時の事を考え、挨拶をする際の注意点を確認しておくと安心でしょう。
献杯を行う前の挨拶は、可能な限り短くするのがマナーです。故人の事を想うからこそつい熱くなってしまい挨拶が長くなってしまう部分もあるかと思いますが長くなりすぎてしまうと周りの方は、まだなのかと感じてしまう場合もあるかもしれませんので手短に一分程度に纏める様にすると良いでしょう。献杯を行う際のマナーとして、忌み言葉を使うのは避けましょう。
献杯は、故人を偲ぶために行われる物です。献杯の挨拶をする側だけではなく、共に献杯を行う側の意識も故人の為に想いを馳せることが出来たら良いでしょう。
献花の知識
献花とは、告別式でお焼香の代わりにお花を捧げる形式の際にお花をお供えする行為や使用するお花の事を言います。お焼香と同じく故人を弔うという意味を持つので、祭壇へお供えする際や棺の中へ入れる際には一人一本ずつお供えするのが一般的です。供花との違いとしては、供花は祭壇の脇や壇上に近親者や関係者によって供えられたお花に贈られた方の名入りの札を立てるのが特徴で、献花と同じように故人へのお悔やみの気持ちを示すものでもありますが、供花は飾り用としての意味合いもありますので参列者によって一人一本ずつお供えする献花とは明確な違いがあります。
献花を行う際の注意点は、故人へのお悔やみの気持ちを自分なりに伝えたい等の理由で自ら花屋へ行って献花を持参する事はしてはいけません。葬儀社や遺族に迷惑を掛けてしまう事にもなりかねませんので会場で用意されたお花を使用して献花しましょう。しかし、ファンなどの一般の方の為に用意される事のある有名人の献花式へ参列する場合はお花は持参しなければならなかったり、お花の種類が決められていたりする場合がありますのでそういった献花式へ参列する場合は、会場のお知らせを事前にしっかりと確認しておきましょう。
献花のマナー
手順とマナーについて一般的な流れをご紹介致しますので参考にして下さい。献花を行う際はまず、会場の係の方から花を両手で受け取ります。この際は花がついている上側を右手で持ち、根元の方である下側は左手で持ちます。そのまま遺族の方へ一礼し祭壇の方へと進み祭壇の前で一礼します。花がついている方を自分へ向けるよう祭壇に花を供えたら遺影を見て黙祷します。花を置く際には、持ち手を離さずに花を時計回りに回し、花が自分側へ向いたらそのまま祭壇へ丁寧に置きます。後ろへ下がり、最後に遺族や牧師へ一礼します。
こちらが一般的な献花の流れになります。単純な流れのように思えますが緊張すると間違えてしまう事も少なくありませんので、事前にしっかりと確認をするのは勿論のこと、一度練習してみるとより安心です。
宗教ごとの献花
最後に宗教ごとの献花の違いについてお伝え致します。献花は全ての宗教の葬儀で行われる物ではなく、主にキリスト教や無宗教の葬儀で行われることが多いです。献花を行う場合は白百合や白いカーネーションが使われることが多いのですが、違う花を使用した場合にも基本的には白い色の花が使われます。ですが、献花の色は白色の花を使用するのが一般的というだけで、絶対にこの色でこの花を使用しなければいけないという決まりがある訳ではないので故人が好きだったお花を色とりどり使用する場合もあります。また、一般的にはお葬式で使用しない棘のある花、具体的にはバラなども故人が好きだった際などに遺族の要望で使用する事もあります。